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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)463号 判決 1978年2月27日

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人という。) 木越金作

<ほか六名>

右控訴人ら訴訟代理人弁護士 真部勉

榎本武光

被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人という。) 前田喜七

右訴訟代理人弁護士 中村護

丸田哲彦

主文

一  控訴に基づき、原判決中控訴人らに関する部分につき、原判決主文(四)の1、(五)の1、(七)の1を除くその余の部分を順次次のとおり変更する。

1(一)  控訴人木越は、被控訴人に対し、金三万八五九二円及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで年一割の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人木越と被控訴人間の別紙(一)物件目録(一)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降月額金九一〇〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金一万八七〇〇円であることを確認する。

2(一)  控訴人藤沢は、被控訴人に対し、金二万一一一二円及び内金三六四〇円に対する昭和四六年五月一日から、内金一万七四七二円に対する昭和四七年五月一日から各支払済まで年一割の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人藤沢と被控訴人間の前記目録(二)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四八年一二月七日以降月額金六六〇〇円であることを確認する。

3(一)  控訴人大曾根は、被控訴人に対し、金二万五六三二円及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで年一割の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人大曾根と被控訴人間の前記目録(三)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降月額金四二五〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金九二〇〇円であることを確認する。

4  控訴人飯島と被控訴人間の前記目録(四)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降月額金六五〇〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金一万四七〇〇円であることを確認する。

5  控訴人久枝と被控訴人間の前記目録(五)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降月額金一九五〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金四二〇〇円であることを確認する。

6(一)  控訴人有限会社南蛮堂は、被控訴人に対し、金二万二一〇四円及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで年一割の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人有限会社南蛮堂と被控訴人間の前記目録(六)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降月額金四〇〇〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金八〇〇〇円であることを確認する。

7  控訴人飯塚と被控訴人間の前記目録(七)記載の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降月額金四五〇〇円、昭和四八年一二月八日以降月額金九〇〇〇円であることを確認する。

8  被控訴人の控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人らのその余の控訴を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを二分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、

「一 原判決の控訴人らに関する部分中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

二 被控訴人の控訴人らに対する請求を棄却する。

三 本件附帯控訴を棄却する。

四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」

旨の判決を求めた。

被控訴代理人は、

「一 本件控訴を棄却する。

二 附帯控訴に基づき、原判決主文(一)の2、(二)の3、(三)の2、(四)の2、(五)の2、(六)の2、(七)の2を次のとおり変更する。

1 控訴人木越と被控訴人間の別紙(一)物件目録記載(一)の土地(以下同目録記載の各土地を本件(一)の土地、本件(二)の土地などという。)の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金二万一五四二円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金二万五六六八円、同年八月分以降月額金二万六七八四円であることを確認する。

2 控訴人藤沢と被控訴人間の本件(二)の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四七年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金六三一九円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金一万〇五六〇円、同年八月分以降月額金一万一二一七円であることを確認する。

3 控訴人大曾根と被控訴人間の本件(三)の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金九七七二円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金一万一七五二円、同年八月分以降月額金一万一八二〇円であることを確認する。

4 控訴人飯島と被控訴人間の本件(四)の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金一万七四四九円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金二万一〇五一円、同年八月分以降月額金二万一六九五円であることを確認する。

5 控訴人久枝と被控訴人間の本件(五)の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金五二三六円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金六三一八円、同年八月分以降月額金六五一一円であることを確認する。

6 控訴人有限会社南蛮堂(以下南蛮堂という。)と被控訴人間の本件(六)の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金九四六六円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金一万一四二一円、同年八月分以降月額金一万一七七〇円であることを確認する。

7 控訴人飯塚と被控訴人間の本件(七)の土地の賃貸借契約につき、賃料が昭和四六年五月分以降昭和四八年一一月分まで月額金一万〇六七五円、同年一二月分以降昭和五一年七月分まで月額金一万二八七九円、同年八月分以降月額金一万三二七二円であることを確認する。

三 控訴費用及び附帯控訴費用は控訴人らの負担とする。」

旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示(ただし控訴人らに関する部分に限る。)のとおりであるから、これを引用する。

原判決一八枚目表六行目の末尾に「(乙第三号証の四は原本の存在も不知)」を、同一〇行目の末尾に「(ただし乙第三号証の四は写)」を各加える。

(被控訴代理人の陳述)

一 原判決添付別紙物件目録記載(一)ないし(三)の土地の表示を別紙(一)物件目録(一)ないし(三)記載のとおり改める。ただし右各土地の実測面積は従前のとおりで、増減はない。

二 被控訴代理人中村護、同丸田哲彦は、控訴人ら代理人手塚八郎に対し、昭和五一年七月一四日送達された請求の拡張の申立と題する書面をもって、控訴人らに対する同年八月分以降の賃料を次のとおり増額(いずれも月額)する旨の意思表示をした。

1 控訴人 木越 二万六七八四円

2 控訴人 藤沢 一万一二一七円

3 控訴人 大曾根 一万一八二〇円

4 控訴人 飯島 二万一六九五円

5 控訴人 久枝   六五一一円

6 控訴人 南蛮堂 一万一七七〇円

7 控訴人 飯塚 一万三二七二円

よって、被控訴人は、控訴人らに対する昭和五一年八月分以降の賃料月額が右のとおりであることの確認を追加して求める。

三 被控訴人の控訴人らに対する賃料増額請求は、いずれも本件各土地に対する公租公課の増加、土地価格の高騰があり、従前の賃料が不相当となったため行ったものである。

(証拠関係)《省略》

理由

一  被控訴人が、本件(一)ないし(七)の各土地を所有し、控訴人らに対し、それぞれ、原判決添付別紙一覧表(以下、一覧表という。)(1)欄記載の土地を同表(2)欄記載のときから建物所有の目的で賃貸し、その賃料が昭和四一年から坪当り月額同表(4)欄記載のとおりであり、右賃料は毎月末日までにその月分を支払う約であったこと、被控訴人が、(一)控訴人らに対し、昭和四三年四月、同年五月分以降の賃料を一覧表(3)欄記載のとおり増額する旨の意思表示をし、(二)控訴人木越に対し昭和四五年九月二六日到達の書面で、控訴人大曾根、同久枝、同南蛮堂、同飯塚に対し同月二五日各到達の書面で、また控訴人藤沢に対し同年一〇月三〇日、控訴人飯島に対し同月二二日各送達の本件訴状で、いずれも同月分以降の賃料を一覧表(5)欄記載のとおり増額する旨の意思表示をし、(三)控訴人飯塚に対し昭和四六年二月二五日の原審口頭弁論期日において同年三月分以降の賃料を月額一万〇六七五円に増額する旨の意思表示をし、(四)控訴人藤沢に対し昭和四七年五月一〇日の原審口頭弁論期日において同月分以降の賃料を月額六三一九円に増額する旨の意思表示をし、(五)控訴人木越、同藤沢、同大曾根、同飯島、同久枝、同南蛮堂に対し昭和四八年一二月六日各到達の、控訴人飯塚に対し同月七日到達の各内容証明郵便で、同月分以降の賃料を、いずれも月額控訴人木越につき二万五六六八円、同藤沢につき一万〇五六〇円、同大曾根につき一万一七五二円、同飯島につき二万一〇五一円、同久枝につき六三一八円、同南蛮堂につき一万一四二一円、同飯塚につき一万二八七九円に各増額する旨の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争いがなく、(六)被控訴代理人中村護、同丸田哲彦が、控訴人ら代理人手塚八郎に対し、昭和五一年七月一四日送達された請求の拡張の申立と題する書面をもって、同年八月分以降の賃料を、いずれも月額控訴人木越につき二万六七八四円、同藤沢につき一万一二一七円、同大曾根につき一万一八二〇円、同飯島につき一万一六九五円、同久枝につき六五一一円、同南蛮堂につき一万一七七〇円、同飯塚につき一万三二七二円に各増額する旨の意思表示をしたことは当裁判所に明らかである。

二  そこで、以下被控訴人の右各増額請求の当否につき逐次検討することにする。

1  まず、各原審における鑑定人鐘ヶ江晴夫、同阿久津節男、同田原拓治の各鑑定の結果(以下右三鑑定については、鐘ヶ江鑑定、阿久津鑑定、田原鑑定という。)によれば、昭和四一年から昭和四八年一二月までの間においては、年々土地の価格が高騰し、公租公課も増額され、これにつれて近隣の賃料も逐次改訂されていったことが認められる。

2  昭和四三年五月分以降の賃料の増額請求(一の(一))

(一)  表記増額請求のうち控訴人藤沢、同飯塚については、被控訴人は、右控訴人両名が被控訴人の右増額の意思表示に対し右同額の賃料を支払う旨承諾したと主張するので、まずこの点につき判断する。

《証拠省略》によれば、控訴人藤沢と同飯塚(ただし控訴人飯塚については、同控訴人が賃料の支払をその借地上の建物に居住させている永森義彦に任せており、永森が同控訴人を代理した)は、被控訴人から昭和四三年四月表記賃料増額の請求を受けたところ、控訴人藤沢においては同年五月二三日、控訴人飯塚においては同月二〇日、それぞれ同月分の賃料として被控訴人の請求のとおりの額を被控訴人方に持参して支払った(同控訴人らが同月分の賃料として被控訴人の請求額を支払ったことは当事者間に争いがない。)こと、ところが、右控訴人両名は、その後その余の控訴人らにおいては同月以降も増額請求前の賃料額を供託している事実を知り、自分らもこれにならうことにし、同年六月以降の賃料については増額請求前の額を供託するようになったことが認められる。

右認定した事実によれば、控訴人藤沢と同飯塚は、昭和四三年五月分の賃料について、被控訴人の増額請求をそのまま認めて、その支払をしたのであるから、被控訴人の賃料増額の申込を承諾したもので、被控訴人との間に被控訴人の申込のとおりの内容の各合意(昭和四三年五月以降の賃料を控訴人藤沢につき月額一五八四円=坪当り三六円、控訴人飯塚につき月額二四三八円=坪当り四六円とするもの)が成立したものといわざるをえない。

右控訴人両名は、昭和四三年五月分の賃料を被控訴人の請求のとおり支払ったのは、錯誤に基づくもので、右賃料増額の合意は無効であると主張し、《証拠省略》中には、被控訴人が他の借地人は全部増額請求を認めた旨申し述べたので、これを信じて昭和四三年五月分の賃料を支払った趣旨の供述部分があるが、これに反する原審証人前田ヨネ(第一回)の供述部分に対比しただちに採用できず、他に控訴人ら主張の錯誤を認めるに足りる証拠はない。

もっとも、控訴人藤沢の借地(本件(二)の土地)については、地代家賃統制令の適用があることにつき当事者間に争いがないところ、同控訴人の借地の昭和四三年度の統制額は月額一五〇四円である(別紙(二)第一参照)から、前記賃料増額の合意(月額一五八四円=坪当り三六円)は右統制額をこえる限度で効力を生じないものである。

(二)  次に、控訴人藤沢及び同飯塚を除くその余の控訴人らに対する表記増額請求の当否につき判断する。

昭和四三年五月当時の本件各借地の適正賃料を判断する直接的資料としては、鐘ヶ江鑑定があるのみであるが、同鑑定は、控訴人大曾根の借地(本件(三)の土地)を抽出し、右借地につき次の三つの方法でその賃料額を試算した。即ち、まず、(1)更地価格の三〇パーセントを底地価格とし、右底地価格に二パーセントを乗じ、更にこれを一二で除して月額賃料を算出する同鑑定のいう積算方式で、これによると、月額五〇五九円となり、次に、(2)昭和四一年当時の合意賃料月額から当時の公租公課月額を控除した額(賃料純益)に地価の上昇割合を乗じ、これに昭和四三年度の公租公課月額を加える同鑑定のいうスライド方式で、これによると、月額二六二七円となり、最後に、(3)鑑定時点(昭和四六年五月)での近隣の賃料を調査した結果は、三・三平方メートル当り店舗の場合で月一〇〇円、住宅の場合で月八〇円であるとし、控訴人大曾根の建物利用が店舗兼住宅であることから、同控訴人の借地の右時点での賃料を三・三平方メートル当り月九〇円として、これをもとに鑑定時と昭和四三年五月当時の地価比率を乗じて同時点の賃料月額を推算している(同鑑定のいう市場賃料)。右(3)の推算では月額二五七八円となっている。

同鑑定は、以上をもとに、(2)と(3)が極めて近い価を示したのに比べ、(1)が著しく高額であることと、(1)については利廻り率をいくらにするかにつき確たる根拠のないことを理由に(1)の方式による試算の結果は一応参考程度に止め、近い価を示した(2)と(3)のうち本件においては(2)のスライド方式によるのが妥当であるとし、その余の控訴人らの借地(ただし地代家賃統制令の適用のある控訴人藤沢を除く)の適正賃料額を求めるに当っては、(2)の方法のみにより、これにより算出した額をそのまま適正賃料とした。

同鑑定によると、昭和四三年五月時点での適正賃料は、いずれも月額(かっこ内は三・三平方メートル当り)、

(1) 控訴人木越   五八六三円(五四円八二銭)

(2) 控訴人大曾根   二六二七円(五五円六五銭)

(3) 控訴人飯島   三五九四円(四一円四八銭)

(4) 控訴人久枝   一二六七円(四八円七三銭)

(5) 控訴人南蛮堂   二四六〇円(五二円三四銭)

である。

ところで、田原鑑定によれば、昭和四七年から昭和四八年四月までの東京地方裁判所借地非訟事件の二六決定例の更地価格に対する賃料年額の割合を計算するとその平均値は〇・五パーセントであるというし、当審証人横町綱の証言によれば、同人が昭和四九年三月に三鷹市と武蔵野市の八〇六例につき公示価格と賃料年額の関係を調査したところ、年額平均賃料額は、商業地につき公示価格の〇・五パーセント、住宅地につき同じく〇・四パーセントであったと供述している。そこで、試みに、鐘ヶ江鑑定による昭和四三年五月当時の控訴人らの借地の更地価格に〇・四パーセントを乗じ、これを一二で除した値を出してみると、鐘ヶ江鑑定のいう前記適正賃料額に極めて近いことが明らかである(別紙(三)参照)。

また、《証拠省略》によれば、国が被控訴人から国有財産である建物の敷地に供する目的で賃借している三鷹市下連雀四丁目一五一番地宅地二六五・一二平方メートルの昭和四六年四月一日から昭和四七年三月三一日までの賃料は年額九万四二九八円であることが認められ、右によれば、右土地の右時点での三・三平方メートル当りの賃料月額は約九八円であることが計算上明らかであるところ、鐘ヶ江鑑定は、昭和四六年五月当時の賃料をも判定しているので、右鑑定の結果を右国と被控訴人間の賃料額と対比すると、同鑑定の右時点での控訴人らの借地(控訴人藤沢の借地を除く)の平均値は三・三平方メートル当り月額約九七円であり、国と被控訴人間の賃料とほぼ同額である(別紙(四)参照)。

以上検討の結果、当裁判所は鐘ヶ江鑑定を大筋において妥当とするものであるが、控訴人木越、同飯島、同久枝については、被控訴人の増額請求額より高くなっているし、鐘ヶ江、阿久津、田原の各鑑定によれば、控訴人大曾根の借地は、商業地域に属し店舗の敷地として使用されているのに対し、その余の控訴人らの借地は、いずれも住宅地に属し、控訴人南蛮堂の借地が営業目的に使用され、控訴人藤沢の借地が公道に接していないいわゆる袋地であるほかは、立地条件にさしたる相違はないことが認められるから、結局以上をもとにして、昭和四三年五月以降の適正賃料を、いずれも月額、

(1) 控訴人木越   五三五〇円(三・三平方メートル当り約五〇円)

(2) 控訴人大曾根   二六〇〇円(同じく約五五円)

(3) 控訴人飯島   三二九一円(同じく 三八円)

(4) 控訴人久枝   一一九六円(同じく 四六円)

(5) 控訴人南蛮堂   二四〇〇円(同じく約五一円)

とするのを相当とする(控訴人飯島と同久枝については請求額が低いので請求額どおり認めるもの)。

3  昭和四五年一〇月分以降の賃料の増額請求(一の(二))

本件証拠中には、控訴人らの各借地の昭和四五年一〇月時点の適正賃料額を直接判断できるような資料はない。しかし、鐘ヶ江鑑定は、前述の昭和四三年五月当時の賃料額の算定と同様の方法で、三年後の昭和四六年五月時点の賃料額を算定しているから、同鑑定の昭和四三年五月から昭和四六年五月までの賃料増加額の三分の二を昭和四三年五月から昭和四五年一〇月までの賃料の増加額として、昭和四五年一〇月当時の賃料額を試算すると、別紙(五)のようになる。

被控訴人は、被控訴人が控訴人らに対し昭和四五年九月ないし同年一〇月になした表記増額請求の効力の発生を昭和四六年五月以降に限定している。右の趣旨は必ずしも明らかでないが、右が鐘ヶ江鑑定の昭和四六年五月時点の鑑定結果が適正賃料額である限り当然にその額まで増額されるとするものであれば、その見解は当裁判所のとらないところである。即ち、賃料増額請求訴訟が係属中であるからといって、賃料増額の意思表示がその間継続的になされていると解することはできず、増額請求の意思表示をした後重ねて増額の事由が生じても、新たに増額請求をしない限り、意思表示の効力発生時を標準として増額の効果が発生するにすぎないものと解すべきである。

したがって、当裁判所は、前記試算の結果と立地条件をもとに、昭和四六年五月以降の賃料を、いずれも月額、

(1)  控訴人木越   九一〇〇円(三・三平方メートル当り約八五円)

(2)  控訴人大曾根   四二五〇円(同じく約九〇円)

(3)  控訴人飯島   六五〇〇円(同じく約七五円)

(4)  控訴人久枝   一九五〇円(同じく 七五円)

(5)  控訴人南蛮堂   四〇〇〇円(同じく約八五円)

(6)  控訴人飯塚   四五〇〇円(同じく約八五円)

とするのを相当とする。

地代家賃統制令の適用のある控訴人藤沢の借地については、昭和四五年度の統制額が月額二六八八円(三・三平方メートル当り約六一円)であるところ(別紙(二)第二参照)、右統制額はその余の控訴人らの賃料額に比し、三・三平方メートル当りの単価において低額であり、右統制額をもって適正賃料とすべきである。

4  控訴人飯塚に対する昭和四六年三月分以降の賃料の増額請求(一の(三))

控訴人飯塚につき昭和四五年一〇月の増額請求につづき、更に昭和四六年三月の増額請求を肯認するのは相当でない。

5  控訴人藤沢に対する昭和四七年五月以降の賃料の増額請求(一の(四))

表記増額請求は、地代家賃統制令の適用のある控訴人藤沢の借地につき、昭和四六年建設大臣告示第二一六一号により算出した同年度の統制額六三一九円(別紙(二)第三参照)まで増額を求める趣旨のものである。右によれば、被控訴人は、右統制額は適正賃料の下限を画するものと主張するもののようであるが、もともと地代家賃統制令は、地代及び家賃を統制して国民生活の安定を図ることを目的とするものであり、右の目的を達成するため同令三条は貸主が統制額を超えて地代を受領することを禁止しているのであり、これらに照らせば、同令によって定められる統制賃料は授受しうる賃料の上限を定めたものにすぎないものと解するのが相当である。特に昭和四六年建設大臣告示第二一六一号により統制額の算出方法が改正された後にあっては、固定資産税課税標準額に乗ずる割合が従前一〇〇〇分の二二であったのが、一〇〇〇分の五〇に引上げられ、統制額が市場賃料を上回るに至ったことは公知の事実であり、右による控訴人藤沢の借地の同年度の統制額である前記六三一九円も後述の昭和四八年一二月時点での同借地の適正賃料額にほぼ見合う額であり、右額をもって昭和四七年五月当時の適正賃料とするのは相当でない。

他に、同時点における控訴人藤沢の借地の適正賃料額を判定するに足りる資料はない。

6  昭和四八年一二月以降の賃料の増額請求(一の(五))

(一)  《証拠省略》によれば、国が被控訴人から国有財産である建物の敷地に供する目的で賃借している三鷹市下連雀四丁目一五一番地宅地二六五・一二平方メートルの昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの賃料は年額一九万三三一七円であることが認められ、右によれば、右土地の右時点での三・三平方メートル当りの賃料月額は約二〇〇円である(以下、特にことわらない場合は三・三平方メートル当りの月額賃料額をいう。)。

(二)  阿久津鑑定の結果によれば、被控訴人の本件借地附近に所在する賃貸地のうち五例については、昭和四九年一月、借地人の承諾をえて二〇〇円に改訂したことが認められ、阿久津鑑定によれば、昭和四八年当時の本件借地の近隣においては一〇〇円から二〇〇円の間であることが認められる。

(三)  阿久津鑑定は、本件借地の右時点における更地価格を三・三平方メートル当り五五万円と査定し、田原鑑定も控訴人飯塚の借地を本件各借地の代表的なものと認めたうえで、同借地の右の価格を同額としているので、更地価格を三・三平方メートル当り五五万円として、これに前述の〇・四パーセントを乗じて、三・三平方メートル当りの年額賃料を出し、これを一二で除してその月額を試算すると一八三円となる(田原鑑定では、右につき〇・五パーセントを乗じており、これによると二二九円となる。別紙(六)の第一、第二参照)

(四)  先に述べたように、鐘ヶ江鑑定は、同鑑定のいうスライド方式による試算値が本件においては近隣の比準賃料値とも近く、妥当な結果を導くとして同方式により適正賃料を算出している。そこで、昭和四八年時点につき同方式により試算すると、別紙(六)の第三のとおり一八〇円となる(なお、公租公課につき昭和四九年度が前年度より減額になったことを考慮して試算した別紙(六)の第四、第五参照)。

(五)  阿久津鑑定は、控訴人藤沢及び同大曾根の借地を除く控訴人らの借地の三・三平方メートル当りの月額適正賃料額を一六〇円、控訴人藤沢及び同大曾根については前記立地条件を考慮し、前者につき一一二円、後者につき一九二円とした。同鑑定は、スライド方式等同鑑定が適正賃料を判定するにつき重視した試算において昭和四三年五月当時の比準賃料額を四〇円としているが(その根拠は明らかにしていない)、鐘ヶ江鑑定の右時点での控訴人ら(ただし控訴人藤沢を除く)の借地の平均値が約五〇円になるのに比し低すぎるし、また前記(一)ないし(四)に述べたところと対比しても、阿久津鑑定の結論はかなり低い水準にあると思料される。

一方、田原鑑定は、いずれも三・三平方メートル当りの月額適正賃料額を、

(1) 控訴人木越  一七六円

(2) 控訴人藤沢  一五三円

(3) 控訴人大曾根 一九五円

(4) 控訴人飯島  一七四円

(5) 控訴人久枝  一六二円

(6) 控訴人南蛮堂 一七一円

(7) 控訴人飯塚  一七〇円

としている。同鑑定も比準賃料を一七〇円とする根拠があいまいである等細部において問題とすべき点はあるが、多方面から検討を加えており、前述の(一)ないし(四)と対比すると相当程度に参考にしうるものと考える。

(六)  以上(一)ないし(五)に述べたところと先述の各借地の立地条件を合わせ考え、各増額請求の意思表示が控訴人らに到達した日の翌日以降である控訴人飯塚につき昭和四八年一二月八日以降、その余の控訴人らにつき同月七日以降の賃料を、いずれも月額、

(1) 控訴人木越   一万八七〇〇円(三・三平方メートル当り約一七五円)

(2) 控訴人藤沢   六六〇〇円(同じく一五〇円)

(3) 控訴人大曾根   九二〇〇円(同じく約一九五円)

(4) 控訴人飯島   一万四七〇〇円(同じく約一七〇円)

(5) 控訴人久枝   四二〇〇円(同じく約一六二円)

(6) 控訴人南蛮堂   八〇〇〇円(同じく約一七〇円)

(7) 控訴人飯塚   九〇〇〇円(同じく約一七〇円)

とするのを相当とする(なお控訴人藤沢の右賃料が昭和四八年度の統制額を下回ることについては別紙(二)の第四参照)。

7  昭和五一年八月分以降の賃料の増額請求(一の(六))

表記時点における控訴人らの各適正賃料を判定するに足りる的確な証拠はないから、右増額請求は理由がない。

三  控訴人藤沢、同飯塚が昭和四三年六月分以降従前の賃料額を供託し、その余の控訴人らが同年五月分以降同じく従前の賃料額を供託していることは当事者間に争いがない。

以上によると、

1  控訴人木越は、昭和四三年五月分以降昭和四六年四月までの未払賃料残額金三万八五九二円(賃料五三五〇円から供託金額四二七八円を控除した額の三六か月分)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払義務があるというべく、また、本件(一)の土地の賃料は昭和四六年五月分以降月額金九一〇〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金一万八七〇〇円であると認められる。

2  控訴人藤沢は、昭和四三年六月分以降昭和四六年四月までの未払賃料残額金九五二〇円(賃料一五〇四円から供託金額一二三二円を控除した額の三五か月分)のうち金三六四〇円(原審の認容額、この点については附帯控訴がないのでこれを超える部分につき当審は審判できない。)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金、並びに、昭和四六年五月分以降昭和四七年四月分までの未払賃料残額金一万七四七二円(賃料二六八八円から供託金額一二三二円を控除した額の一二か月分)及びこれに対する昭和四七年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の各支払義務があるというべく、また、本件(二)の土地の賃料は、昭和四八年一二月七日以降月額金六六〇〇円であると認められる。

3  控訴人大曾根は、昭和四三年五月分以降昭和四六年四月分までの未払賃料残額金二万五六三二円(賃料二六〇〇円から供託金額一八八八円を控除した額の三六か月分)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払義務があるというべく、また、本件(三)の土地の賃料は昭和四六年五月分以降月額金四二五〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金九二〇〇円であると認められる。

4  控訴人飯島は、昭和四三年五月分以降昭和四六年四月分までの未払賃料残額金二万八〇四四円(賃料三二九一円から供託金額二五一二円を控除した額の三六か月分)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払義務があるというべく、また、本件(四)の土地の賃料は昭和四六年五月分以降月額金六五〇〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金一万四七〇〇円であると認められる。

5  控訴人久枝は、昭和四三年五月分以降昭和四六年四月分までの未払賃料残額金一万〇二九六円(賃料一一九六円から供託金額九一〇円を控除した額の三六か月分)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払義務があるというべく、また、本件(五)の土地の賃料は昭和四六年五月分以降月額金一九五〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金四二〇〇円であると認められる。

6  控訴人南蛮堂は、昭和四三年五月分以降昭和四六年四月分までの未払賃料残額金二万二一〇四円(賃料二四〇〇円から供託金額一七八六円を控除した額の三六か月分)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払義務があるというべく、また、本件(六)の土地の賃料は昭和四六年五月分以降月額金四〇〇〇円、昭和四八年一二月七日以降月額金八〇〇〇円であると認められる。

7  控訴人飯塚は、昭和四三年六月分以降昭和四六年四月分までの未払賃料残額金一万八五五〇円(賃料二四三八円から供託金額一九〇八円を控除した額の三五か月分)及びこれに対する昭和四六年五月一日から支払済まで借地法所定年一割の割合による利息金の支払義務があるというべく、また、本件(七)の土地の賃料は昭和四六年五月分以降月額金四五〇〇円、昭和四八年一二月八日以降月額金九〇〇〇円であると認められる。

四  よって、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、右三記載の限度で認容し、その余は棄却すべきであるから、原判決を右のとおり変更し、被控訴人の附帯控訴を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法九六条、九二条、九三条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 内藤正久 堂薗守正)

<以下省略>

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